456日間のフランス滞在、創業10周年を迎えて。

気づけば、創業から10年が経ちました。改めて、日頃からご支援いただいている関係者の皆様、そしてご愛顧くださる皆様に、心より御礼申し上げます。

22歳ではじめた小さな商売ではありますが、フランスの香り文化をより多くの人へお伝えすることをテーマにして日本とフランスの間でここまでやってこれたのは、日本という国の感度の高いお客様あってこそだと改めて感じております。

2023年から2025年までの間、僕は南フランス・ニースを拠点として様々な活動をしておりました。いくつかの活動は今後、成果としてご報告できるものと思っています。

「日本にはないフランスの魅力とは何か?」
「香りの魅力とは何か?」

思い返してみると、この問題の解を探す10年間だったように思います。そして、10周年を迎えた今年、その解のひとつにようやく辿り着いたと確信しております。今後、その答えを皆様と共有できればと思いますので、それまでお楽しみにして頂ければと思います。

1年3ヶ月もの期間「社長がフランスにいる」という前代未聞な状態ではありましたが、おかげさまで非常に有意義な、そして実りある滞在となりました。その顛末をご笑覧頂ければと思います。

ラベンダー色に染まる夏のこと

アルジャン村の山の奥を歩いていると、あちこちに生息している野生ラベンダーを見つけることができます。古来から受け継がれてきた原種の花の、凛とした雰囲気がたまらなく好きです。

毎年のようにフランス全土を襲う真夏の熱波も、アルプス山脈の麓、標高1400mの高地では無縁の世界。朝の気温はなんと10度しかありません。人里離れた秘境に格別の避暑地があります。

2015年に初めてこの地を訪れ、2018年、2023年、2024年と人生4度目の滞在になります。
アルジャン村には友人もいて、実家に戻ってきたかのような安心感もありつつ、僕の人生の起点となった大切な場所でもあります。夏という季節のせいもあるのか、毎回来るたびに20代に戻ったような気分になります。夏はノスタルジーな季節ですね。

今回は収穫前の準備から収穫・蒸留と2ヶ月間の長期滞在となりました。

いつものメンバーとインターン生で収穫を行います。伝統製法の工程のひとつ「天日干し」を行うのは今ではブルーダルジャン農園のみ。無農薬栽培のため雑草とラベンダーを手作業で分けながら高原にラベンダーを広げていきます。

この作業が実に良い香りなんですよね。ラベンダーから余分な水分を飛ばす作業なのですが、太陽に晒されて蒸発していく水分と一緒に立ち込めるラベンダーのほのかな香りは格別です。どんな高級な香水よりも良い香りです。

でも、なかなか手間がかかるため、今ではブルーダルジャン農園のみが行う作業となりました。この工程こそブルーダルジャンらしい香りを生み出す秘密です。

フランス人も知らないような辺鄙な山奥に「なぜ日本人が?」と最初は不思議がられますが、僕がフランス語を話すと分かると、村人たちが勝手に集まってきて質問攻めに。特に、最近の日本ブームもあって、個人的な話だけでなく「東京はパリみたいに都会すぎる?」「日本旅行をするなら何日間くらい必要か?」と言った質問を受けます。

たまたまブルーダルジャン農園の収穫のお手伝いをしてくれていた近くに住む家族が大の日本好きということで、自宅で手料理を振る舞ってくれました。

そんな一期一会があるのも旅の面白さ。

ヨーロッパで暮らしていると、欧米人からは「日本人はコミュニケーション能力や言語化能力が…」という話を聞くことがしばしばあります。「空気」や「間合い」など独自の非言語コミュニケーションを重視する日本人にとって、フランス流コミュニケーションの難しさは慣れが必要かも、と思うことも。そして、日本人独特のハッキリさせない態度はフランス人を困らせることも。

フランスのような多文化社会では「フランス語」こそ文化の源泉であり、コミュニケーションの成立に不可欠と感じます。

夏の終わり。ラベンダー農園を離れる前に、どうしても訪れたかったヴェルドン峡谷に行くことができました。9年前に初めてブルーダルジャン農園を訪れた時に行きそびれてしまって、ずっと心残りだった場所です。

ヴェルドンはヨーロッパ最大の峡谷として知られていて、長さ20km、深さ700mの断崖絶壁が連なります。また、世界ジオパーク「オート=プロヴァンス地方」の一部としても登録されており、アルプス山脈の貴重な地形が残る場所として知られています。

2015年当時は学生起業だったこともあり、まだ車の免許を持っていなかったため、ここまで来ることができませんでした。今回、満を持してレンタカーを借りて(2ヶ月間レンタカー生活でした)、念願のヴェルドン観光。

「10年間で、どのくらい成長しただろうか?」

ヴェルドンを見ながら、そんなことを考えてみたりするのですが、「フランスで車を運転できるようになった!」とか、案外そんな些細なことが嬉しかったりします。できることが増えたというのは良いことで、フランス語の方もわりと成長してて、賃貸契約とか色んなことがフランス語でできるようになってましたね。

超国際的な社会人シェアハウスでのあれこれ

夏が終わり、再びニース生活がスタートしました。
2ヶ月の間、留守にしていたわけですがありがたいことに再び同じアパートに戻ってくることができました。大家さんとの信頼関係はフランス暮らしでは何よりも大事なこと。外国人が住むところを探すというのは想像以上に難しいのです。

僕がお世話になったのはニース郊外のシェアハウス。フランス人をはじめ、ドイツ、アフリカ、アメリカなど様々な人間が暮らす場所でした。偶然見つけたシェアハウスのオープン第1号が僕だったこともあり、このシェアハウスの中心にいることになりました。

25歳〜35歳という年齢の中でちょうど真ん中、英語もフランス語もそこそこ話す、唯一のアジア人。色々ちょうど良かったんでしょうね。僕以外のほとんどがニースやモナコのMBA(経営学修士)生でした。なぜか僕の経歴を面白がってくれて、毎日が飲み会です。

でも、こちらからすると、他の人たちの経歴の方がずっと面白く思うのです。元Google社員、投資銀行、トレーダー、ハンター(猟師)、資産家の息子、クルーザー管理会社の役員などなど毎日のネタに事欠かない人ばかり。

シェアハウスになったのはニースに単身者向けアパートがないからで、意図したものではありませんでした。自分がシェアハウスなんて…と思っていましたが、飛び込んでみると楽しいものです。海外生活は強制的に自分の殻を破ることにおいても一役買ってくれました。

たまに起きる同居人同士のケンカや些細なトラブルさえも、まるで国際チームワークの練習のようなもの。どうすれば丸く収められるか、日本人らしい知恵を使って乗り越える術を身につけられたのは良い体験でした。

ちなみに、このアパートから眺めるニースの夕焼けは格別。さすが世界遺産の街並みです。

創業10年目に課せられたミッション・インポッシブル

この456日間には、ラベンダー以外にもうひとつのミッションがありました。
それは、2年前から準備をしていた「あるプロジェクト」を、フランスで形にすること。

今回はそのためにフランスの様々な場所を訪れていたのですが、いよいよ帰国間近。しかし、帰国3ヶ月前の時点で計画が白紙に戻り、目標達成どころか企画の練り直し…と言ったところ。このままでは日本に帰国することなんて出来ません。

しかし、何事も諦めること勿れ。

粘った甲斐あってか、帰国直前になってようやく様々なことが同時進行で動きはじめました。フランス人との交渉はとてもキツいことで知られていますが、どうにかしなければなりません。

2025年新春、快晴の初日の出を拝み、もはや神頼みとはこのこと。自分の運を信じるしかありません。映画やドラマでも太陽が昇るのは良い方向へ向かう場面ですからね。

起業して10年。僕がこの仕事をはじめたきっかけは1件のラベンダー農家との出会いから、フランスの香りをお伝えすることにあります。香りにはまだまだ知られざる魅力があるに違いないと思い、南フランスの歴史あるラベンダーの香りにスポットライトを当てました。

ラベンダーは古代から、心身を癒す力があると信じられてきました。古代ローマ人たちが入浴の手当てに使い、中世にはペストから人々を救い、現代人の忙しい心を休める香りとして、2000年以上にわたって活用されてきました。

「では、他の植物の香りはどうだろうか?」

次のステージは、ラベンダーはもちろんのこと、フランスの様々な香りに注目していこうと考えています。「香りと美容」は切っても切り離せない存在です。美容の歴史は香りにあり、また逆も然り。今後はフランスで生まれた香り文化を、できるだけ広く、深く、皆様にお届けできる事と思います。

ニース旧港の夜景は世界遺産にふさわしい豪華さ
国立ニース天文台から眺めるニースの夜景はまるで絵画の世界
8万年周期で回るとされるアトラス彗星とニースの天使の湾の奇跡の一枚

終わりに:456日のフランス生活を終えて

456日(1年3ヶ月)で成果を出さないといけないというタイムリミットがあった中でのフランス生活。なかなか厳しいものではありましたが、自分の可能性に挑戦するという意味でも非常に有意義なものになりました。

結果として、自分の想像を超える成果を得ることができました。456日間、すべての経験が糧となり、今後の活動の指針にもなっています。その内容はまた次回の記事にて。

改めて、フランスで出会ったすべての方に御礼申し上げます。
そして、僕が不在の中でも震災など様々な活動をしていたスタッフ、さらに、日本各地のお取引先の皆様、ご愛顧いただいているお客様に改めて感謝申し上げます。

11年目から当社にとっては創業期よりも大きなチャレンジとなります。日本だけでなく世界の情勢は未だ不安定で難しいご時世ではありますが、だからこそ、香りと美容の文化で、皆様の日常に小さな彩りを添えられたら、それ以上の幸せはありません。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

ABOUT ME
あっさんぷらーじゅ合同会社
代表 金子竜得
1992年生まれ・石川県出身 / フランス・ボルドー留学を機に出逢ったラベンダー農家「ブルーダルジャン」と意気投合し、輸入を決意する。日本販売元として起業し、「ラベンダー農家」と南フランス文化を伝える。 アート・旅行・オーディオ・カメラが趣味。